研究紹介

菌根形成植物のリン獲得機構の分子機構に関する研究

作物の三大栄養素でもあるリンは世界的に枯渇が懸念されている限りある資源です。作物の生産性を維持し、持続的な農業の発展のためにはリンの作物による効率的な利用が重要です。

アーバスキュラー菌根(AM)菌は土壌中に普遍的に存在する糸状菌で、陸上植物の約8割とと共生しています。AM菌と共生した植物(菌根形成植物)は植物自身による直接経路とAM菌を介した菌根経路の2つの経路からリンを獲得しますが、植物がどのように獲得経路を制御しているかについての詳細は明らかになっていません。

私たちは、菌根形成植物のリン吸収経路の制御機構を明らかにするために、トランスクリプトーム解析手法を軸に養分条件や生育ステージの異なる植物体について網羅的な遺伝子発現の調査を実施し、根や根圏土壌の化学的分析と合わせて研究を進めています。モデル植物や作物を用いて遺伝子の機能解析も実施しています。これらの研究を通して、菌根共生機能を活用したリン資源の効率的な利用において有益な基盤情報を得ることを目指しています。

実施中の具体的な研究テーマ

  • 窒素およびリン栄養条件の異なる条件におけるミナトカモジグサの菌根形成とリン獲得経路の制御
  • 養分欠乏条件下におけるダイズの生育とリン獲得経路の経時的解析

植物根圏におけるリンおよび他元素の可給化機構に関する研究

植物は土壌から必要な栄養素(ミネラル)を吸収しますが、土壌中では植物が使えない形態で存在していることも多くあります。特にリンは、土壌中では難利用生のリンとして多くが蓄積していることが知られており、蓄積リンの利用は農学における重要な課題の一つです。

植物は土壌中に存在する難利用生のリンを根から分泌する代謝物(有機酸や酵素)を用いて吸収可能なリン酸へ変える力を持つことが知られており、その能力は植物種間や品種でも大きく異なることが調べられてきました。

私たちは、土壌のリンの形態調査をすることで品種間のリン利用形態の違いを調査し、リンの獲得形質との関連を明らかにしています。また、リンの可溶化能がとりわけ優れていると考えられるマメ科のシロバナルーピンが作る特徴的な形の根(クラスター根)に注目し、リンに限らず他の元素(カリウムやセシウム)の可給化の可能性について研究を進めています。これらの研究は実験室だけではなく、実際の圃場での試験も多く実施しており、作物生産現場への応用を目指しています。

実施中の具体的な研究テーマ

  • コムギコアコレクションを用いた土壌中難利用性リン可給化能の品種間比較
  • シロバナルーピンの土壌中難利用性リン可給化能の空間的解析
  • シロバナルーピンが土壌中のカリウム・セシウム動態に与える影響

植物の養分欠乏・有害元素ストレス適応機構に関する研究

自ら動けない植物は生育環境下で様々なストレスに晒されますが、植物はそうしたストレス環境に適応する戦略(適応機構)を持つことが知られています。問題土壌の一つである酸性土壌ではアルミニウム害やリン欠乏になりやすく、作物生産の大きな制限要因になります。

一方で、植物の中にはそうした環境を好んで生育するものもいます。例えばツクシテンツキは他の植物が育つことのできない硫気荒原で生育できますが、その要因についてはほとんどわかっていません。このような一見変わった性質をもつ植物に着目し、どのような適応機構を持つのかについて植物栄養学を軸に、生態学的・生理学的な視点からの研究を進めています。現地へのサンプリング調査から、実験室での栽培試験、関連する遺伝子の機能解析も進め、ストレス適応機構の一端を明らかにすることを目指しています。

実施中の具体的な研究テーマ

  • 火山性強酸性土壌に生育するツクシテンツキの環境適応機構の解明
  • メラストーマのアルミニウム超集積に関わるMATE遺伝子の機能解析

養分ストレスによる作物の生理障害発生や機能性成分量変化に関する研究

植物はストレス環境下では生育抑制をはじめ様々な影響を受けてしまいます。例えばトマトやパプリカでは、Caの欠乏により果実において尻腐れと呼ばれる生理障害が起こることがよく知られていますが、その発症機構はまだ完全には明らかになっていません。私たちの研究室では、養分(とくに窒素)の量の違いが他の元素吸収や分配に与える影響を調査し、尻腐れの発生との関連性を調査しています。

また、ストレス環境下では適応機構として様々な代謝産物の合成や分解、輸送などが大きく変化します。トマトでは適度な塩ストレスが糖度を高めることや、抗酸化能やそのほか食品としての機能性成分量を変化させることも報告がされています。

私たちは日本国内生産が高まりつつあるパプリカを用いて養分の欠乏や過剰が果実中の機能性成分へ与える影響を調査しています。

実施中の具体的な研究テーマ

  • 温度・窒素条件がパプリカの尻腐れ発生に与える影響
  • 窒素処理がパプリカの機能性成分に与える影響